諸行無常だからこそ。

しーんと静まり返った
真っ暗闇から

「芳一、芳一」

と呼ぶ声がする。


久しぶりの"耳なし芳一"に
今日は国立演芸場で出会った。

琵琶の代わりに三味線の音色。
真っ暗な高座に
二つ目時代の神田松之丞ただ一人。


だがそこで
盲目の芳一が
平家の落ち武者に連れられて
墓場に通っては琵琶を奏でている。

周りでは
平家の鬼火が
すすり泣くようにチラチラと
芳一の琵琶を聞いている。

真っ暗な高座に松之丞ただ一人。
な、はずなのに
芳一が平家の最期を琵琶で語る
それが見えるのだ。


"どうか芳一、
七日通って、
その琵琶の続きを聞かせては
くれまいか"


自分も鬼火と共に
芳一に頼んでいた気がする。

"どうか松之丞さん
その先のその先を
講談で聞かせてはくれまいか"
とね。


耳に般若心経を書き忘れられたから
耳だけ見つかって切られてしまうが、
あたしも平家の落ち武者ならば
聞かせて貰えないとわかれば
何かしら証を
松之丞さんの耳を…

いや犯罪だな。
でも、例えば連続読み全七日のうち
6日で終わり~なんて事になったら。

切りたくなる気持ちも
わからないではない。


それくらい芳一の琵琶の語りは
凄かったのだろうし、
神田松之丞の芸も
圧巻なのだ。


諸行無常の夏の夜。
揺るぎなき松之丞の芸に酔う。


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