最後の松之丞。

 

今まで何度

神田松之丞版『中村仲蔵』との縁が

あっただろうか。

 

だが、今日の昼の部最後のそれは

圧倒的過ぎた。

 

「栄屋〜!日本一!いい工夫だ!」

 

芝居小屋で見惚れた御見物が

定九郎役の仲蔵に

やっと掛けたあの声だったが、

あたしには"栄屋〜!"

と入ってこなかった。

 

 

明日から神田伯山になる、

今そこにいる最後の松之丞さんが

2007年11月に入門して以来

工夫に工夫を重ねて

腐らず努力を続けてきた

あの時あの時の"松之丞"ご本人に向かって

 

「松之丞〜!日本一!いい工夫だ!」

 

と、何故か変換されて

脳内に響くのだった。

 

そして、

今日ほど『中村仲蔵』を

削ぎ落として削ぎ落として

くっきりと

"黒と白"の対比として魅せられたことも

なかった気がする。

 

 

コネの無い、

孤高の仲蔵が

夢中で努力した"影"と

工夫の先に喝采を浴びて光り輝く姿。

黒羽二重の着物に、

身体中白塗りの斧定九郎。

 

講談『中村仲蔵』を

黒と白という

色で見せるとは…

なんて美しいのだろう。

 

スポットに浮き出る

今日の松之丞さんの白い着物が

暗い高座で一層輝いて見えたのは

気のせいでは無かった。

松之丞さんの工夫が

あればこその

魅了された者の高揚感、幸福感に

繋がるのだ。

 

 

松之丞さんの小学校の卒業アルバム

「20年後の自分」に、

 

"すべての人に幸せをあげているだろう。

by 古舘"

(東京かわら版 2020年2月号17頁より)

 

とあった。

 

口に出したことは

本当にそうなるんだな、と

見た瞬間鳥肌がたった。

勿論、工夫があっての結果に繋がるのは

当然なのだが。

 

それにしても…

 

あたしは今日の高座を目撃出来たことを

一生の宝にする、と決めた。

 

 

 

#神田松之丞

#最後の独演会