潜って気づいた深海物語の第17話。

今日配られた
シティリビングを開く。

"どこのオフィスにも生息する
困った社員図鑑"
なんて記事を見つけた。

これ系の、働く女性のリアルな
本音ネタは毎回っていうほど掲載
されている。

サラリーマン川柳なんてものも
毎年ニュースで話題になるし。

生きていくって
大変だよなぁ。
人付き合いって難しい。


さぁて、営業チームから
事務に配置換えをしたあたしだ。
その深海っぷりは
前職の比ではない。

大きな違いはリーダーが女性。
ある意味ワクワクしたのも束の間
彼女は、何十年も同じ部署で
牢名主レベルな、いや言葉が過ぎるな。
動かざること山の如しなくらいに
異動されていないトップだと知る。
仕事メインで生きてきて現在に至る、
な女性。
…これもかなり言葉が過ぎるな。

だが、彼女の存在や言動は
完全に他を圧倒する。
同世代の部長クラスの男性など
全く寄せ付けないタイプ。
寄るのは仕事だ、自然な流れ。
だが、聞かざること石の如し。
こんな言葉、ないか。

コミュニケーションをしない、
というか
他人の言葉が耳に入らないような
身体の構造かもしれないな。
驚いた。
そんな深くまで潜ってきちゃったのだな。
あたしは。
見たことがない生物との出会いは
このチームにきて頻繁だ。
もう深海さが半端ないのだ。
語れるレベルではない。

語るけど。

契約社員さんが初出勤や、
派遣さんが終わりだと普通は
チームリーダーが御礼を言ったり
プレゼントが無いにしても
お疲れ様くらいの言葉はかけるのが
会社ってもんだろう。
そんな光景は普通だと思っていた。

が、お忙しい彼女は
まず、輪に入ってこない。
朝礼時に皆に報告をしたり
挨拶させてあげたり、もない。
そんな姿を見ても周りは
当然のように何も言わない。
そんなの嫌だと思ったあたしは
プレゼントを用意して
朝礼後に皆に声をかけ
その方に御礼とお別れを言う
タイミングが作れた。
派遣さんも人だ。
派遣さんもお客様だ。
今という存在があり
これからという可能性がある。
どういう終わり方をしたか、って
会社の数字にも影響するはずだ。
どうか好きでいてね、ウチの会社。
弊社の商品。

そんな気持ちもあったから…。


さて、この女王のしもべ、
いやまたまた言葉が過ぎるな。
チームのメンバーも
類は友を呼ぶんだろう。
類に、友に呼ばれちゃったのだろう。
コミュニケーションを
取らないのだ。
いや取っても
とっても妙。

まず、挨拶して
朗らかに返ってきたためしがない。
いや中には素敵な笑顔も
いるけどね。
しかもだ。
超深海上司の非情さに皆
物言いなど一切しない。

林の如く静かなる女子達。
だが、ランチ時の
悪口は甚だしきもので
おかげであたしは
ひとりメシが大好きになった。


女だらけのチーム故に
相当なストレスが溜まってしまうのか
新しい派遣さんに怒鳴りつける派遣が
いたりする。
泣かせるレベルまでやる深海派遣生物
には心から驚いた。

あまりにも雰囲気が悪くなり、
こちとら我慢の限界。
聞いていられないから
言って聞かせようかと
その子に抗議をしてみた。
全く効果がない。
メールにて再度ご連絡を申し上げたら
そのメールをいろいろな方に
転送してくれたようだった。

深海生物の生態は
本当に謎だらけ。

だが、女の敵は女って言うけれど
計り知れない深海生物がウヨウヨな
エリアに足を踏み入れて少しだけ
わかったことがある。

女の敵は女、じゃない、って。

もう、
女とか、男とかじゃないのだ。


人と置き換えても良いだろう。
人の敵は…?

人間の敵は"嫉妬"だ。
嫉妬心が、他人との縁を
おかしくしている気がして
ならないのだ。

嫉妬心の塊の深海生物は
怒鳴っていても
営業男子がきて頼まれ事をしたら
優しくなれるのだ。
今までキーキー言ってマイナスの気を
振り撒いていたのにもかかわらず
男子には手のひらを返すように
愛想を振り撒ける。
やれば出来るのだ。
嫉妬心が無くなれば。
自分が満たされたら。


あたしは貝になりたくても
なれない性分だから
プカプカ浮いては
その都度砂を吐いたり
毒を吐いたりしていた。
深海チームのいろいろを
探ること、早
うん十年が経った。


その間も相変わらず
皆に迷惑をかけたな。
2人目が生まれたり
部署に馴染めなかったりで。
ただもう粛々と生きてきた。
それだけ。

数年後、
幸いにも営業部付きで
事務処理を担当することになったから
超深海チームからは
脱北出来たのだ。
が…


深海は続くよどこまでも、なのだ。

これで終わらない
あゝ深海物語。