潜って気づいた深海物語の第12話。

"望むところだ。"


所詮周囲は
深海生物がうようよなんだよ。
計り知れないのは
当然のこと。

ヤツらといい感じに
和気あいあいでいける訳がない。
一挙手一投足を
わかっちゃったらつまらない。

なんて、今ならそう思うことも
当時の自分には難問過ぎて。
思い切って
一か八かの勝負にでた。


「身重の為、異動になりました」、と
チームリーダーと引き継ぐオヤジの
計3人で今一番お世話になっている
客先に挨拶に行った時だ。

クライアントさんが心配して
聞いてくれた。

「産休とか育休が明けたら
出てくるよね?辞めないよね、会社」

間髪入れず、あたし。
「無いんですよ、弊社。
産休も育休も。
だから辞めさせられる運命で」

はっきりと答えた時、
客先の男性担当者が半笑い。

「はい?辞めさせるって?
無いでしょ、そんなこと。」

畳み掛けてくれたんだ。
事前打ち合わせも無く。

嬉しさを噛み締め噛み締め
あたしは顔を暗めに演出し
「止む無し、ですよ。
本当にお世話になりました。
ありがとうございます」

そう伝えて、尚且つ
自分の上司が引き継ぐから
今後共ご愛顧を、とやんわり話を
終わらせた。

あの時の深海生物達の顔が
忘れられない。
恥ずかしいと、
バツが悪いと人は
あんな顔をするのだ。


数日経って、チームリーダーに
呼ばれた。

「育休で1年なんて
休ませてあげられないけど、
産休で4ヶ月の休みはオッケー
取れたから」


あのクライアントさんの
おかげである。
会社初?の産休取得。
これから続く女子の為にも
なんとか育休まで取って実績を残して
あげたかった。
もうちょっとだったのに。
作戦を練る時間が無かった。
でも、風穴を開ける事が出来たのだ。


あたしはいつも
嫌な目に遭って気づくのだ。
助けてくれる人の姿や
その人の動きなんかを
しっかり見せてくれるチャンス
なのだな、と。
これは大事な学びなんだ、って。
泣きたいくらい口惜しいし
殴りたいくらいムカつくが
別の側面を探して
気持ちを抑える。
とか言いつつ、
渦中にいる時には
本当に辛いし、
へこたれることもしばしばだ。

だが、このピンチは自分に何を
教えてくれようとしているか、を
冷静に考えてみようとする姿勢だけで
何かが変わってくる、な
って気づいたんだ。

いつも誰かが助けてくれるし、
越えられないものは
自分には来ないと。

言い換えるならば
越えられるから
そのピンチが自分に降りかかるんだ。

さあて、どう乗り越える?
次の波を…
なんだよな。