潜って気づいた深海物語の第14話。

「そこの赤い車、止まりなさい!」

真昼間。
街中に警察車両からの
デカイ声が響いた。

わかってるよ。
あたしに言ってるんだ。
だってさ、
信号待ちしていたら
突然陣痛がきたのだ。

反対3車線隔てた向こう側に
産婦人科の駐車場が見えた。
幸か不幸かあたしは
センターライン側を走っていたから、
右を見ると三車線向こう側には
天国の門が。
早く楽になりたい。
もうすぐだ。

信号が赤。
反対側からの車もこない。

「今だ!」

もう我慢が出来ないあたしは
右にハンドルを切って
病院の駐車場に…

そうしたら3~4台後ろに
パトカーがいたのだ。
派手にサイレン付きであたしを
追いかけてきた。

(ゴールド免許じゃなくなるな)

捕まること必至。
だが、
陣痛でこっちも必死。

降りてきたお巡りさん方に
悪びれもせず
あまりの痛さに悪態をつく。

もうすぐ生まれそうなんです!
交通ルールすら守れないくらい
我慢が出来ない事だって
あるんです!
痛いんです!
話している暇はないんです!
赤ん坊が出てきたら
お巡りさん取り上げてくれるんですか?!

わめき散らしながら
駐車場にきっちり
車を止めて、
プリプリしながら車から降りた。

若い巡査2人は
「荷物お持ちしましょうか?」
「頑張って元気な赤ちゃんを産んで
ください!」

そう言って、神妙な顔で
あたしが病院に入るのを見送ってくれた。
いい人だった。


初期の陣痛だから
まだ間隔が長い。
普通に考えたらわかるだろう。
下痢間際で
もう出ちゃうって時に、
駐車などしていられないはずだ。
白線の内側にキレイに。
ちょっと波が引いてる時じゃないか。

荷物をトランクから出しながら
話をしている間にまた
激しい痛みに襲われ
お股を押さえ、
妖しく身体を傾けながら
巡査さんと別れた。
注意すら受けず。

幸いにも
その後もずっと
ゴールド免許だ。
有り難いことに。



3車線越えをしたのにも関わらず
オドオドすらせずに
逆ギレして難をのがれ
おかげ様で
第一子を無事出産した。

予定日より2週間以上も早く、
警察に捕まってから
2時間程で赤ん坊と対面。

考えたら、
怒ったりムカついたおかげで
あたしのガソリンが
溜まりに溜まっていたのだ。
そして、
自分のいろいろが
なんか無事なのだ。
なんとか前に進んでいる。

覚悟が出来ると
人は強くなれるってことか。
何とかなるって
ことか。