潜って気づいた深海物語の第11話。

そうなんだよね。
負けなんだよ。
感情を露わにしちゃったらさ。


感情ってば、心の葛藤。
己の迷いな訳でさ。
怒りでキーキーしていては、
自分自身がもうキーキーで
いっぱいいっぱいです、って
開けっぴろげに教えちゃっている
ことになるんだよなぁ。


だが、怒りをひた隠しにして
ポーカーフェイスを気取れるほど
あたしには気合いと根性が
足りなかったのだ。


結婚後もバタバタと相変わらず
営業に走り回っていたのだが、
子が出来た事が判明した。
しかも、仕事がノリノリな
一番最高なチャンスの時に。
本当にあたしってば
人生のスケジューリングが
とことん出来ない人間なのだな、と
もう笑うしかなかった。

大きな案件に
絶対成功させたいし
この仕事は絶対取りたい、と
うずうずしていた矢先だったのだ。

一番大詰めを迎える時は
あたしも分娩台で大詰めを迎えている
はずのタイミング。

だから、組織や仕事のことを思ったら
今上司に申告し、即
担当を外れるしかなかった。

だけど、後にも先にも
これ以上の仕事はない、くらいな
規模と金額に目がくらみ
ギリギリまで誰にも言わず
粘ってしまった。
やってみたかったのだ。
自分がどこまで出来るのか、って。
信頼してくれたクライアントさんにも
ここで外れます、なんて
言えなかった。


勿論母親にもなりたかったから
産む気は満々。
調べると、
出産予定日の2ヶ月前から
産休という制度が社会的には
存在するらしかった。

自分が休みの間、
クライアントも製造側も
困らないような
マニュアルを作り、
話を詰め、
チーム内にも共有して
皆が動けるようにしておいた。
よって、
引き継ぎは1ヶ月あれば
充分だろうと確信し、
予定日の3ヶ月前に上司に伝えたのだ。

お腹の大きさがバレないように
いつもはちょっと大きめな
ジャケットを着て、マタニティ風味を
一ミリたりとも匂わせなかった。

深海生物の目は、たしか弱いんだよな。
周囲も上司は誰も
あたしの異常事態に
気づいていなかった。

タイミングを見計らって
産前産後2ヶ月の産休と
1年の育休を申請した。
社会的にそういう制度があるから、と
プレゼンしながら。

上司の答えは

「ノー」

だった。

丁度いいタイミングだから
退職した方がいいよ、
母親になってしっかり育児に
励むのが女の幸せだ、と
女の幸せをオヤジから
教示されたのだった。
引き継ぎも出来ているみたいだし、
このまま一人抜けても
部としては全く問題ない、と。

流石だ。
おっしゃる事が計り知れない。
想像を、いつも越えてくる。
発言を承り
体がワナワナ震え
片手でボールペンを折る事が出来た。

深海生物のおかげで
あたしも芸をひとつ
身につけられたってもんだ。

さて、オヤジらの言いなりに
なると思ったら大間違いだ。

あたしがとった行動は…

ですが、なんとなんとお時間が
いっぱいいっぱいで。


この続きはまた…