ゾクゾクっ。

深川江戸資料館ってところは
下町風情の人懐っこい
いい感じの空気があるんだ。


だけど、今日の寄席。
松之丞さんと龍玉さんの
『大江戸悪人モノガタリ』が
はねた夜は、いつもと何か
違った。


"握手をするように人を殺す"
畦倉重四郎。
むごたらしさぶりが半端ない
松之丞さん。


龍玉さんは、
吉原が大炎上する
"大坂屋花鳥"。


金が無くて
剣が立つ。

なら、殺る。
そして、奪う。

捕まりたくないが故の
殺し。
どちらのネタもだ。


今宵はここ深川で
何人斬られたんだ?!

ってくらいの寄席だった。

怖さ、陰鬱さを倍増するには
任しとき、だ。
話芸とは
こっちにも任せてくれる芸だから。

任されれば
任されるほど

"激しい情景を想像して
やろうじゃないの"

高座の勢いに負けないくらいな
気合いで
吉原を焼き尽くしてみたよ。

負けず嫌いな想像力。

はねて外に出てみたら
資料館通りが
いつもより暗く感じてね。

だから、
花魁花鳥の手引で
上野、谷中方面に逃げた
梅津長門の体で
野兎のように背中を丸めて
帰途を急いでみたのだった。


後ろから人の気配…

ぞくぞくっ。

このまま無事に
逃げられるかな。
これからどうやって
生きていくか。

何故か、殺った側で
ものを考えていた。


空気が変わる
芸がある。