センター試験前の…

方向音痴の我が子から
懇願された。

センター初日、一緒に行って
くれないか、と。
道に迷ったりして
後悔したくないから。


土曜日の寒い朝早くから
出掛けたくないなぁ…

と思いながらも
これだけ頑張ってきたのに
遅刻して試験を棒に振って
出鼻を挫かれたら
さぞや辛かろう、と
一緒に行った。

緊張させては、と
試験後の楽しみイベントの話やら
いろいろを持ち出して
笑いながら、話しながら
試験会場に送り届けた。

踵を返して
ふと…
道脇に立ち尽くしてしまった。

試験会場に向かう
彼ら、彼女らの
姿に、
言葉をのみこんだ。

イヤホンを耳にして
ある一点を見つめて歩く子。

ボロボロになるまで使い込んだ
付箋がいっぱいついた
単語集を、お守りのように
手に持ってうつむきながら
向かう子。

友達と、笑いながら
向かう子。

車で送ってもらい
ママが
「頑張ってね」を
言い終わらないうちに
ドアを閉めて足早に試験会場に
向かう子。

何かを忘れちゃったのか
カバンをゴソゴソして
落ち着かない子。

手袋の手を揉みながら
前を向いて…。

久しぶりに
覚悟した顔を、こんなにたくさん見た。

真剣な表情って
こんなんだったのだ。


愛おしくて
美しくて
何故か喉の奥がグッときた。

いよいよだね。

充分頑張ってきた全部を
悔いなく吐き出してやれ!

で、受験生ご本人は
聞きたくないだろうけど
やっぱり言いたいよ。

頑張れ!って。