潜って気づいた深海物語の第9話。

地方周りで
すっかり真っ黒になった
あたしが
都内のデパート営業に異動して
色白な…いや、そうでもないか。


デパート営業の記憶は
ほとんどない。
毎日のルーティーンで
一日が終わり
そしてまた明日になって
同じような一日が始まる。

不思議な深海生物には
出くわすっちゃ出くわすが
特筆するような珍しさもない。
おまけに背中のボンベには
なんとなく酸素が入っているのか
微妙に潜って、泳ぐしかない日々。


なんとかして
サボりたく
なんとかして
休みたく
日々作戦は練っていても
見張り役の先輩方からの
網にすぐ
かかっちゃうんだな。

流石は先輩。
ご自分もそんな経験をされたのか。
サボりそうなヤツだと分かると
すぐに色々な所に同行させられる。
上手いこと鼻が効くのだ。
気づいたら一網打尽にされて
動きを止められる。
仕方ない。
粛々と目の前のことを進めるのみだ。
言われたことを
工夫もなく
ただただ粛々と。


でもね、深海生物好きで
自分も深海慣れすると
もっと深いところに
何かいるんじゃないか、とか
探してみたくなる。
が、それが出来ない訳。
首に縄でもついちゃったかのようで
上へ上へと引き上げられる。

幸か不幸か
あたしみたいな体質は、
ちょっとでも上昇するだけで
死んでしまうんだ。

(もうあかん、な。)

そう思った時、法人部から
声がかかった。

新規開拓好きなんだろ、って。

ルーティーンが苦手で
もうダメだと海から上がろうと
していたあたしは
二つ返事で異動を喜んだ。

入社して3年で
既に3箇所目の部署。


いつも、だ。

もうダメだと思った時に
何かが、
誰かが…
助けてくれる気がするんだ。