おもてなしの極意。

 

帰途。

ラッシュ真っ只中。

地下鉄改札を通る

「ピッ」が立て続け。

行進曲並みのリズムを刻むくらいな

人の流れが出来ていた。

 

そのなかを

ひときわ大柄マッチョな

外国人旅行者3人が

これまた人並外れた大きさのスーツケースを

転がしているのが遠くからでも

はっきり見えた。

 

とうとう彼らは

人の流れを邪魔しないように、

とでも思ったか。

まどろっこしいスピードの

スーツケースを転がすのが苛ついたか、

自慢の筋肉を使って

その大きいスーツケースを

持ち上げて

エスカレーター方向に

進んでいた。

 

その時だ。

 

あたしの少し前を歩いていた

小柄な老婆が

マッチョの背中を叩いたのだ。

 

「あっちにエレベーターがあるから!」

 

マッチョ達は老婆の日本語に

キョトンとしながらも

老婆の指を指す方を見て

エレベーターがあるとわかると

笑顔になった。

 

 

躊躇がなかった。

彼女の行動に。

 

 

英語じゃないと伝わらないかな、とか

何と声をかけたらいいかな、とか

そんな事すら考える暇無く

「あっちあっち!」

が、おもてなしだし

コミュニケーションだと

超短時間に教わった。

 

 

マッチョ達も嬉しそうだったけど

こっちもだ。

久々、人に

見惚れてしまった。