最強。

"ほんとに42両、ねぇのか…"


立川談志さんの芝浜の
あのくだり。

夢か現実か。
訳がわからず
ぼんやりしちゃった
勝のさま。


"働かなくちゃ
いけないな。"

と、あれから3年経った暮。
ボソッと言った一言に。
真面目になれた勝の変わりようが
見える。
耳から見えてくる。



そこで、おかみさんは
財布を出し、顛末をぶちまける。

泣きじゃくり
好きだから捨てないで、と
詫びるおかみさん。


"おっかぁ、ありがとよ。"

"おっかぁ、呑むよ。
俺、呑んじゃうよ。"


があんなに嬉しそうなのに。


"よそっ"

"どうしたの"

"また、夢になるといけねぇ"


サゲのアッサリさが
うわぁー!ってなるんだ。


昭和57年12月、と
タイトルのついた
立川談志版芝浜を
You Tubeで聞いた。
時期じゃないけど
何故だか今、
芝浜を。
何度も何度も繰り返し。

耳だけだと余計に
立川談志
リアルに映る。
芸じゃないんじゃないか。
そう思えてくる。

ト書きがなくて
二人の会話だけ。
自然とあたしも勝に
なっていた。

真っ暗な海辺で
顔を洗ったし、
財布を見つけて
腰が引けた。

ある時は勝になり
またある時は
おかみさん役に
すんなり入れるくらい
リアルなのだ。

で、思ったのは
旦那を更生させようって、
意を決して財布を隠すくらい
気が強いはずの
おかみさんの割に
泣きじゃくり過ぎてない?
って思って
もう一回聞いてみた。
別バージョンも
試しに。

平成19年の芝浜だ。

緞帳が下りたところでまた上がる、
終わらない、あれだ。

"くどいようですが
一期一会。
いい夜を
ありがとうございました"


そう言って
ニヤリとする家元。

25年経った芝浜は
おかみさんが違う気がした。


泣きを押さえて
成り行きを説明し
勝に好きだとはっきり言うのだ。
かっこいい。
ストレートで好きだなぁ。

女々し過ぎない。
言うべきことを
言葉でちゃんと言える人。

勝じゃなくたって
惚れ直すに違いない。


いや、だけど
おかみさんひとりをとっても
四半世紀かけて
逡巡して、磨きをかける
立川談志という人に
こうして
少しだけ触れられただけで
幸せになる。

芸って、
こういうものなんだなぁ。
そして
芸を通して
生き方を教わった。

諦めるな。
自分が納得出来るまで
やり続けろ、って。

まだ聞こえてくるよ。

"夢になるといけねぇ"